#014 “最高”を掴むために、”最悪”を想定しておく

劇的な開幕勝利を飾り、これ以上ないスタートを切った京都ハンナリーズ。
試合前は応援する誰もが心の中で「鮮烈な勝利」をイメージしていたであろう開幕戦。しかし、蓋を開けてみれば、理想とは程遠い現実。スタートから非常に重苦しく、歯痒い展開が続いた。しかし、徐々に自分たちのバスケットボールを取り戻し、チーム一丸で勝利を掴む。
その要因は「”最悪”を想定しておく」という準備にあった。
試合前後の選手へのインタビューを含め、この勝利を紐解いていく。

ー開幕前日 岸本隆一との対話
ー10年以上経験してきた「開幕」というものに対して、気を配っていることはあるのか
「前提として、ネガティブな意味ではなく、ポジティブな意味で。何か予期せぬことが起こっても良いように、受け入れる準備をすることですね。
それは何故かと言うと、今シーズンは特にハードな練習をしてきて、人間なので辛い思いをしたら報われたくなる。僕もみんなも期待値をそれぞれ持っているので、それが故に、ちょっとした上手くいかないことにストレスを感じてしまって「こんなにやったのに、なんで上手くいかないんだろう」みたいな。そうならないように意識はしています。
期待値が高い時だからこそ、上手くいかないことを前提に準備しておきたい。本当にネガティブなことじゃなくて」
ーそういったことが起こった時に、何も考えていないよりも、事前に頭に入れておくだけで対応が変わると。
「そうそう。起こった時に早く処理できる感じがしていて。その場で時間をかけて噛み砕かなくていいと言いますか。「はいはい、来た来た」と冷静に対応できるので。だから最悪の状況を想定しておくことが大切。まずはそこからです」
ー滋賀に対して何を警戒している点は。
「相手も自分たちも同じで「今年は違うぞ」という思いでやってくると思うんですよ。大きなところで言えば、勢い。そこは気を付けたい。具体的に言うと、相手に同じことを連続でさせない。3ポイントシュートを決めた選手がいて、その次のポゼッションでまた同じ選手に決められるとか。そういうことは絶対に無くさないといけない。同じパターンで相手にやられない。そこのせめぎ合いが必要ですね。開幕はそこが絶対に大事で、相手は勢いを生みたいチームだと思うので。そこは必ずケアしないといけないです」
ーよく聞かれると思うが、「開幕は」どんな心境で迎えているのか。
「めっちゃフラットです(笑)。わりとフラットな気持ちで今は過ごしています。もちろん楽しみなんですけど。楽しみ寄りのフラットですね(笑)。まだ何も起きていないんで。無敵の状態なので。ここからチームとして数字が出てきて、個人の成績も数字に出て、見えない何かに縛られていくのがシーズン。今はまだ何にも囚われていないですし、無敵でいられるので、その状態は楽しいなとは思います」

前田悟との対話
ー開幕で意識していること
「滋賀もうちとやりたいことは同じで、それで流れを作りたいはず。自分たちがやりたいことを先にやればいい。ディフェンスでプレッシャーかけて、早い展開に持ち込むことが大切」
ーどうやって気持ちを作っていくのか
「いつも通り。開幕は気合いが入って硬くなったりもする。シュートが入らなかったり。そんなことはコントロールできない。だから自分たちでコントロールできることにフォーカスしたい」
ー昨日(開幕2日前)は、チームに喝を入れる場面もあったが、キャプテンだからそうしているのか?自然にそうしているのか。
「キャプテンだから言うようにしている。キャプテンじゃなくても気になってはいたと思うけど。昨日の練習は良くなかった。緩すぎる。だから伝えた。緊張感を持ってやらないといけない」
ー身体のことから、スキルのことまで開幕に向けて相当追い込んできた。少なからず自分に期待している部分もあるのでは。
「そんな簡単に結果は出るものじゃない。自分もやることはやってきたけど、そんなすぐに結果が出るものじゃないし、そんなに楽なことはない。長い目で考えている。全チーム頑張っているし、自分たちも頑張っている。それが大前提。でも負けたくない。試合はテスト勉強じゃ無い。相手がいて成立するものだから別物と捉えている。シーズン終盤にどうなっているか。そこをイメージして、いつも通り。やることをしっかりやりたい」

岸本や前田が言うように、理想通りに物事は進まず、自分たちが手に入れたい物は簡単に手中には収まらなかった。
相手のアグレッシブなプレーにターンオーバーを誘発されて失点に繋がり、乗せてはいけない選手に気持ちよくシュートを打たせる。そして、相手に勢いを与えてしまう。こちらもアテンプトは多いものの、得点が決まらない。それが得点差に表れ、3Q終了時点で66-80。
いわゆる「負け試合」の雰囲気を感じざるを得なかった。
しかし、チームの誰ひとりとして、この状況に焦りを感じたり、動揺する者はいなかった。それは、事前に”最悪”を想定するという心構えがあったからだ。

ハーフタイム時に村上直GMに話を聞いた。
「全然問題ない。ターンオーバーが失点に繋がっているところはすぐに改善しないといけないけど、オフェンスはうちの良い所が出てるから。なかなかシュートは決まってないけど、良い形で打てているし、前半で44点はうちからしたら上出来。後半、ターンオーバーの部分。まずはそこから」。
ミーティングルームでは前半にミスを続けてしまった水野幹太が全員に声を掛ける。
「すみません!僕のミスで相手に流れを与えてしまいました。後半しっかりやるんで。しっかり止めるんで。みんなもヘルプしてほしいです」。
このチームに余計なプライドは無い。反省の言葉をしっかりと仲間に伝え、次に進んでいく。水野の実直な言葉がチームにポジティブな風を吹かせる。

水野自身もミスは続いたものの頭の中は冷静だった。
「思ったより野本選手が強くて。そこでやられてしまったなという印象はあります。『そりゃあれだけ勢いがあれば、こんな点差になるよね』って意外と冷静でしたよ。と言うよりも理解するしかない。でも、あれだけ勢いがあって、それが40分続けられるかと言うと簡単なことじゃない。だから、本当に我慢して泥臭く。それをやっていれば大丈夫だと思っていた。
僕自身も以前だったら引きずって落ち込んでいたけど、今はそうじゃない。次にどうすれば良いかを考えてプレーしている。40分の内、39分は相手がやりたいバスケだったかもしれない。でも残り1分でうちは押し切った。そういう勝ち方をしておくことも大切だと思った」。

そして、後半。
数字だけを見ると66-80で3Qが終了し、苦しい状況に見えたが、3Q残り5分頃から徐々に京都に流れが傾き出す。
我慢強くディフェンスで相手のボールの流れを止め、リバウンドでも奮闘する。ハーフタイムにコーチ陣が選手に送ったメッセージに対し、選手全員で遂行。
前半に見られたトランジションでの失点や気持ちよくシュートを打たせていた場面も後半は激減した。
そして、全員で勝利に向かって得点を重ねていく。
フリースローに課題のあるチャールズ・ジャクソンが6本中5本を決めたのも大きなポイントとなった。
「毎日の練習でプッシュしているし、スタッフ陣もサポートしてくれる。練習と同じように試合でも打つ。そういう習慣が、今日の試合に繋がったと思う。チームのみんながミスに対して、みんなで助け合う。それがすごく良い。このチームは本当に良いチーム。これがスタンダード。何が起こっても苦しい時は全員で助け合いたい」。とチームメイトを誇った。

要所で3ポイントシュートを決めたホール百音アレックスの存在も際立った。
「1本目を外したけど、次にボールが来たら絶対に打つ。そう決めていました。そして、もう1本みんなが繋いでくれたので、無心で打ちました。入ってくれてよかったです。オフェンスで仕掛けるという課題も今日は見せれてチームに貢献できて嬉しいですけど、ディフェンスももっと頑張らないといけないです。今日は結果的に勝利で終われて良かったが、毎回こうなるわけじゃないので、しっかりと毎日ステップアップしていきたいです」。

そして、澁田怜音が相手の動きに合わせた多彩な攻撃で9得点と大躍動。
ベンチから颯爽と現れ、チームに大きなエナジーを与える。勝利の立役者になった。
「欲を出さずにいつも通り。フラットな状態で挑めるように、自分に期待しすぎないように挑みました。京都に来てからずっとこの熱気が好き。ファンの皆様も今年が1番期待していると思う。スピードとテンポでチームの力になれてよかったです」。
入り込みすぎて空回りをしてしまう。澁田は自身の課題を克服するために日々練習に取り組み、思考している。
京都での在籍期間もチームでは前田と澁田が最長。自分自身の役回りも様々な成功と失敗を生かし、チームにフィットしてきた。
「自分より、チーム」。行き着いた答えは、仲間のためにプレーすることだった。


そして、岸本隆一が残り3秒で試合を決める3ポイントシュート。
ーまさに想定していた”最悪”が起こったのでは。
「起きちゃったなっていうのはありましたね(笑)。プレーが上手くいっていないということよりも、プレシーズンマッチが上手くいきすぎていた分、劣勢を経験しきれていなかった。そこを懸念していたので、そういう意味で「来たか」と思いました。でもこれがシーズン。簡単な試合はひとつもないですし、むしろ、この状況は楽しんでこそ。前向きにやるしかないので。『まだ大丈夫だよ』っていう空気感を忘れないようにやっていたので、勝つことができてよかったです」
ー冷静でいられるぐらいの”想定外”だったのか。
「終わったから言えますけど、想定内といえば想定内。何回もこういう展開を経験をしてきたつもりですし、それが自分の強みなのかなとも思っていますし。また日曜日どういう展開になるかわからないですけど、先手先手で冷静に戦えられたらと思います」




岸本と同じ年齢、副キャプテンの川嶋勇人もベンチから冷静に試合を観ていた。
「どうやったら自分たちのペースで試合を進められるかなって。みんな頑張っているからこそ起きているエラーみたいな部分があって。そこを考えていた。今日のような試合で勝てたことが大きい。勝って反省ができることは素晴らしいし、自分たちのペースじゃないのに勝てた。
それは全員がシンプルに諦めなかったから。ひとりひとりが冷静になって努力を続けて、百音が全員のリバウンドで繋いだ3ポイントを決めて、怜音も繋いで、最後の隆一。みんなで勝つために努力を繋いだ。ベンチにいる時も気付いたことは伝えて、自分の出番が来るまでは自分がその時にやれる役割を全力で果たしたい」。
チームのためにやれることをベテランが率先して取り組む。それがまたチームの風通しを良くする。プレータイムに限りがあり、内心、悔しさもあるかもしれない。ただ、そんなエゴのために積み重ねてきたキャリアではない。
「周りに気を遣わせるようなことだけは絶対にしない。むしろ常にチームの潤滑油的な存在でいれたらなっていつも思ってる」。川嶋が大切にしていることをこの日も体現していた。

キャプテンの前田悟も静かに振り返る。
「まったく焦ってなかったです。どちらかと言うとフラストレーションがあった。でもいつも通り。平常心で楽しむことが1番大切です。それはチームもみんな同じ思い。このチームでプレーオフに行きたいし、京都ハンナリーズで勝ちたい。そのためにここにいるので、まずは開幕に勝ててよかったです。試合を通して滋賀がやりたいバスケットをしていたけど、そういう試合で勝てたのがものすごく大きいです。とはいえ、まだまだこれから。最後、隆一さんが決めた場面は、自分でも決められる自信ありますよ(笑)。その時がきたら、やってやりたい」。淡々と振り返る様子に頼もしさを感じた。

この夏、40分間、1秒換算で最後まで戦い続けるための準備をチーム全員で進めてきた。夏の2回に渡る合宿。フィジカルトレーニングにも注力し、コート上でも選手同士でトークを重ね、コミュニケーションを取ってきた。
そして、「何が起こっても全員で支え合う」。
まだ何も成し遂げてはいないが、オフシーズンから積み上げてきたあらゆる面での準備と、最高を得るための”最悪”の想定が、劇的な勝利に繋がった。
試合後、伊佐HCはチームの前でこのように話した。「今日何が良かったかって、12人全員でゲーム作ってるからね。調子が良くなかった選手はまた次に取り戻せば良い。勝ちは勝ちだから。全員で残り59試合やっていこう」。
長い道程の中で、まだひとつの勝利かもしれないが、それはとても大きなもので、全員にとって忘れられない財産になった。
明日はまたどんな風が吹くのか。それは誰にもわからないが、京都ハンナリーズは何があっても全員で手を繋ぎ、力強く立ち向かう。






取材・執筆 / 京都ハンナリーズ広報部 笠川真一朗
今後の試合情報
KYOTO HANNARYZ




















