#034 休日返上シュート練習

「アンジェロの3が来ない…」
開幕以降、そんな不安やもどかしさを感じていたブースターも多かったのではないだろうか。
高確率でリングを射抜く3ポイントシュートは、彼の大きな武器。しかし、今季はその瞬間があまり多く見られない。
インサイドで身体を張り、チームメイトにパスを繋ぎ、どれだけ泥臭くチームを支えてくれていても、外からの「一発」を誰もが待ち望んでいたはずだ。
今日はその鬱憤を晴らすかのような試合だった。
この日、アンジェロ・カロイアロが放った3ポイントシュートは6本中5本。成功率は83.3%を記録。
果敢なペイントアタックから得点を挙げると、次は相手ディフェンスがインサイドを警戒。そしてアンジェロが外から仕留める。ここ数年チームを牽引してきた大黒柱の「あるべき姿」が眩しく見えた。

そして、今日のアンジェロは3ポイントシュートだけではない。シュートを警戒されたら、次は鋭いパスで仲間にアシストを供給するなど、最終的なスタッツは驚異的なものだった。
29PTS、10AS、7TRをマークし、文句なしのMVP。
アンジェロが3ポイントシュートを高確率で決め出すと、相手ディフェンスは的を絞るのに手こずる。チーム全体により連動性が生まれる要因ともなった。足りなかったものが満たされたような感覚。大活躍のアンジェロにファンも大きな歓声を挙げた。
結果としてチームはクラブ史上最多となる115得点を記録し、45点差という歴史的な大勝を飾った。


その活躍の裏には、休日返上のシュート練習があった。
今週の木曜日、チームの練習はオフだった。しかし、「シュート練習をしたい」。アンジェロがそう言ったようだ。
内木主道アシスタントコーチ兼オンコート通訳がその時のことを話してくれた。
「アンジェロから『ワークアウトをさせてくれ』と言ってきました。本人も今の状態に思うことがあったんだと思います。そしたら、他の外国籍選手も練習に来ました。秀馬とか若い選手が練習することは日常茶飯事ですけど、これは今までなかったことだったので、本当に素晴らしいことだなと思いました。その日は、他の選手も練習に来た。結局オフじゃなかった(笑)」。
嬉しそうに話す内木AC。そこでアンジェロは3ポイントシュートを打ち続けた。
その日、1日練習をしたからと言って今日のシュートが決まったとは言い切れない。だが、上手くいっていない現状と向き合わなければ、その先には何も生まれない。アンジェロは仲間との勝利のために、そして、自分のために練習を重ねた。

佐賀戦を迎えるまでシュートを打ってこなかった理由は、シュートタッチだけが原因ではない。これまでの試合では外のシュートの確率は落ちていたが、アンジェロは周囲を生かしたプレーでチームの勝利に貢献していた。チームの編成を担う村上GMはどう見ていたのか。
「昨年は『自分がなんとかしなくてはいけない』という気持ちが人一倍強かった。これは悪いことじゃなくて、昨年のような状況だったら仕方ないことだと思う。
彼自身はそういうタイプの選手にもなれるけど、どちらかと言えばチームの楔(くさび)的な選手。選手と選手を繋げる役割。ポイントガードじゃないけど、本当にチームの起点となる選手。ロールプレイヤーだから、今年の戦い方を考えたらチームに良い形にハマってる」。そして、村上GMは続ける。
「シュートを打たないことにも理由があるはず。彼の中で『もう1個パス回した方がいいんじゃないか』とか『空いてるあいつを生かした方がいいんじゃないか』って、良い意味の迷いもあるはず。ただ単にシュートタッチが良くないっていう話で終わらせるのは違う」。
勝つために何が最善なのか。現状の位置に留まらないように常に変化していく。アンジェロの意識の変化がシュートのアテンプトにも大きく関わっていた。

そして、内木ACも村上GMと同じような捉え方をしていた。
「彼とそういう話はよくするのですが、今のガード陣がしっかりとアンジェロにボールを供給してくれるっていう部分が大きいです。
ボールをもらってスコアするのか、受けたボールを離して他の選手にアシストするのか。確実に色んなオプションが増えたと思います。
彼自身が持っているスキルをチームに還元していこうという意識を僕もすごく感じます。仲間の良い部分を引き出して、アンジェロ自身もスキルを伸ばしているので、それがスコアに繋がっています。外からのシュートも大切ですけど、今日はアシストが10。それも良いことだと感じています」。
オンコート通訳として、彼と多くのコミュニケーションを取ってきたからこそわかることもある。アンジェロの魅力は今シーズン、より輝きを増していると内木ACは言う。
「彼は本当にオールラウンダーな選手ですし、チームメイト全員がアンジェロという存在を本当に理解しています。そして、アンジェロ自身もチームメイトに寄り添っています。
チームに対する気持ちと言いますか。そういった姿勢が今年はより一層伝わってきますし、本当のチームワークが、どんどん生まれていて、彼の魅力がより増しているように感じています」。
嬉しそうに魅力を語る姿を見ると、今のアンジェロがどれだけ良い状態なのかが理解できた。

チームを率いる伊佐勉HCもアンジェロの存在に助けられていると話をしてくれた。
「ものすごくIQが高い選手です。ポイントガードとゲームを組み立てる時もありますし、ビッグマンとゲームを組み立てる時もあるので、ヘッドコーチとしてはすごく助かる存在です。すごく良い選手だと日々感じています」。
そして伊佐HCは、アンジェロがプレーしやすい環境をしっかりと作り出す努力をしている。
10月上旬の長崎とのホームゲーム。チームのケアルームでアンジェロがマッサージを受けている時に伊佐HCが彼を訪れた。身体を気遣ってスタートから外すかどうか、本人とコミュニケーションを取るためだ。
「長崎の時、相手が2ビッグしかいないっていう状況も手伝ってですけど、それまでずっと30分以上プレータイムがあったので、昨年の怪我のこともありますし、本人に直接相談した方がいいと思って。
『僕はスタート外しても良いかなと思ってるけどどう?』と確認しました。僕が良いと思っていても、アンジェロからすれば『スタートから出ないとリズムが狂う』みたいな本人の感覚もあります。
それをチェックしないままこちらで判断するのは彼にとって良くないことなので。本人としっかり会話をしてあの日はスタートから出てもらうことにしました」。
伊佐HCの歩み寄りは、アンジェロに限らず、チーム全員に行き届いている。全員でチームを作ることが、クラブのカルチャーになっている。

今日の試合後、内木ACと話をした。「選手・スタッフ全員に『やりやすさ、風通しのの良さ』を感じるけど、実際どう?」と質問をすると、内木ACは深く頷いた。
「本当におっしゃる通りです。伝えたい大事なことが伝えやすい環境だと感じています。こういう選手にはこういう風なプレーをしてほしいとか、そのプレーをしてほしいから、こういうワークアウトをしてほしいとか、コミュニケーションを取りながらプランをしっかりと組むことができています。
そして、選手たちにプランを投げかけた時に、選手たちもそれに応えてくれますし、その結果が、今日の試合でも表現されています。
自分たちもすごくコーチングしやすいですし、選手たちもすごく伸びています。日本人選手だけじゃなくて、外国籍選手も現状に満足することなくワークアウトに力を入れてやってくれています。
そして、自分たちが伝えたことを選手たちは正面から受け止めてくれますし、疑問があれば、ストレートに言ってくれます。だから、次の解決策が生み出しやすい。
『話しやすい』って当たり前じゃないと思うんです。それが今できている。それが本当に良いことだなと思っています」。充実感に満ち溢れた表情で語ってくれた。


そして、当の本人、アンジェロ・カロイアロは今日の試合で何を感じたのか。多くは語らなかったが嬉しそうな表情をしていたのは確かだった。まずはシュートのことを尋ねた。
「チームメイトがオープンなショットを打たせてくれたとこが大きいと思っています。
自分の中でもアテンプトも確率も昨年より落ちているという意識はありました。それでも自分はしっかりと打ち切れるシューターだと思っていますし、目の前の自分のやるべきことを淡々とやり続けていたら良くなっていくと信じています。
休日に主道(内木AC)がシュート練習に付き合ってくれたので、良い結果に繋がって良かったです。ありがとう」。
ブレずに自分の仕事をやり続ける。上手くいかなければ、練習をすれば良い。考えはシンプルなものだった。そして、少し照れながら内木に感謝の気持ちを伝えた。

アンジェロは今のチームスタイルをとても気に入っている。疑いようのない信頼感をチームメイトに寄せていることは日頃の彼の姿を見ればわかる。練習でもとにかく前向きで明るく、競技を始めたばかりの少年のようにバスケットボールそのものを楽しんでいる。このチームの何が良いのだろうか。アンジェロは迷わず答える。
「互いにリスペクトをしている。それが何より良いと思っていることです。本当に素敵な関係を築けています。
僕自身もこのチームに所属して3年。自分が何をしないといけないかを理解しているつもりですし、チームメイトの考えも把握しています。これからも勝利のために頑張りたいです」。
インタビューをしている横ではアンジェロのふたりの娘たちが、まだか、まだか、と首を長くしながら父の仕事終わりを待っている。筆者はそれを見て、急いで最後の質問を投げかけた。
ー アンジェロ、京都ハンナリーズは好き?ー
「大好きです。本当に大好き。
僕も僕の家族もこのチームと街がすごく大好きで、ここにずっといても良いと言われたら、永遠にいたい。
そのくらい京都ハンナリーズが大好き。いつもありがとう」

取材・執筆 / 京都ハンナリーズ広報部 笠川真一朗
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KYOTO HANNARYZ




















