#045 幹太らしさ

11月1日(日)に行われた信州ブレイブウォリアーズとのアウェイゲーム。京都ハンナリーズにとって悔しい連敗となった。しかし、チームのここまでの成績を見れば、まだ悲観するような状況ではない。12試合を終え、8勝4敗。
チームも敗戦をしっかりと受け止め、前を向いている。
試合には敗れたが、信州とのGAME2。試合終了の瞬間に今年のチームを象徴しているようなシーンがあった。渾身のシュートを放ち、コートに倒れ込んだ前田悟。それを見たコート上の4人の選手が、ごく自然に前田の元へと駆け寄り、手を差し伸べる。
倒れた仲間を一人にしない。その光景は、今シーズンの京都ハンナリーズがどんなチームなのかを象徴する素晴らしいシーンだった。

上杉翔ACがその場面を振り返った。
「ちゃんと全員で悟を起こしに行っていたんです。普通だったら負けて悔しいし、あらゆる感情があると思うんですけど、感情をしっかりと抑えて、倒れている人を起こしに行く。しかもそれが1人とかじゃなくて、全員が行動したっていうのは普通ではありません。なかなかできない行動で、それが自然にできるっていうのは、チームの状態としては良いのかなと思っています」。
敗れて悔しいのは全員同じ気持ちだが、それだけではない。「正直、負けたことに悔しい気持ちもありますけど、シーズンは長いですし、そういう時もあります。上手くいく時もあれば、上手くいかない時もあります。最終的に自分たちの目標に辿り着ければいい。その過程をしっかりと大事にしながらやっていきたいです。負けたからとか勝ったからとか、そこにフォーカスするより、そこから得たもので振り返って反省して修正して。成長していくことが何よりも大切です」。現場の人間たちは勝因も敗因もすべてをしっかりと受け止めて、常に前を向いている。60試合というレギュラーシーズンを戦っていく上で、連敗したことをいつまでも引きずっている時間はない。

今、チームは澁田怜音という今季目覚ましい活躍を見せている男を欠くという苦境に立たされているが、その事実もまたチームを強くするための挑戦だと位置付けている。そして、その挑戦の中でもがいている若手選手もいる。PGの水野幹太もそのひとりだ。上杉ACが水野に対しての思いを語った。
「幹太はやっぱりチームの中でもムードメーカー的な存在だと僕は思っているんで、それがコート内外すべてにおいてそうなっていってほしいです。ムードメーカーとしてプレーでもハッスルして、彼の長所を出してくれれば、自然とチームは良い方向に引っ張られていくと思うので、そういう部分を出してあげられるように自分たちも力になれたらと思っています」。上杉ACは続ける。「失敗してもいいと思います。それが成長に繋がる失敗であれば。何事も最初からうまくいくとも限らないですし、そういう時間があっても全然いい。そういうのって振り返ってみれば僕も現役時代にありました。そんなに深く考えすぎず、やれることをしっかりやれば、それがチームのためになると思うんです。今の時間が彼の成長に繋がるように思い切ってやってほしいです」。求めるものは、「幹太らしさ」だった。

チームの編成を担う村上GMは、現在の状況をどのように捉えているのか。
「選手も日々成長しているし、このシーズンを通してどれだけ成長できたかは最後に分かると思う。怜音が試合に出られなくなって、その代わりにプレータイムが増えた選手たちは、自分の持っているパフォーマンスを出すのはもちろん、プラスαの成長が生まれると思っていて。
ただ単に怜音がいなくなって戦力が落ちた、スピードが落ちたとかではなく、その間に出ている選手が自分の良さを出し、プレータイムを得て成長することで、その選手にも責任感が生まれてくる。そうなれば怜音が帰ってきた時にさらに上を目指すための競争が生まれるので、この状況を良いきっかけにしてほしいし、選手もみんなそう思っているはず。『怜音がいないから戦力がダウンしている』と自分たちで言っているようでは現状維持のまま。誰かがカバーして、より良いケミストリーが生まれるように切磋琢磨していってほしい。そういった意味では幹太がキーになるのではないかと思っている」。

水野幹太にしかできないことがある。村上GM自身も現役時代に様々な壁にぶつかった経験がある。だからこそ、水野が今、成長のきっかけを掴もうと必死にもがいている姿を見て、思うことがある。
「シュートの調子の良し悪しも日によって違うし、色々な状況の中でプレーすることは簡単じゃないけど、自信を持ってプレーすることと自分の良さを出すことは、調子が悪くても関係なくできる。
幹太の魅力はディフェンスやハッスルプレー。得点やアシストで選手は評価されがちだけど、僕が幹太をこのチームに欲しいと思った理由はエナジーやディフェンスの部分。そこを思いっきりやってほしい。
今すごく苦しんでいると思うけど、自分が得意なことをまずコートで表現して、そこで流れを掴んでからの得点やクリエイト。最初にディフェンスでバチバチ当たってトーンセットして、チームのディフェンスのリズムを一度作って入れば、もっと良い入り方ができる。
自分が現役の頃も悩ましい時期はすごくあったから気持ちもわかる。スターターで出ている時も控えの時もあったけど、キャリアの中堅に入る頃には、『試合に出たら自分の得意なプレーを先にやろう』と思っていた。試合の途中で出る時、コーチ陣は『こういうプレーをコールした方がいい』と言ってくれるけど、僕はそれをやりつつ、半分無視しているところもあった。シンプルな考えとして相手よりも得点を決めるスポーツだと思っていたので、出た瞬間に思いっきりドライブしてファウルをもらいに行くとか。
相手からしたら、交代して出てきた選手にいきなり抜かれて点を決められたら嫌だと思うし、『また攻めてきたらどうしよう』と迷いが生まれる。
与えられたことをやるのが大前提としても、自分がどうしていくかも少しは大切。シューターなら入っても入らなくてもコートに出てすぐ1本打つというのも同じ。どちらにせよ、思い切ってやってほしい」。失敗を恐れず、考え過ぎず、小さくならずに挑戦を。村上GMは、水野のあるべき姿に期待している。成長には痛みが伴う。最初からすべてが上手くいくとは限らないし、容易な世界ではない。だからこそ挑戦は楽しく、やりがいがある。

そして、村上GMは続ける。
「幹太だけじゃない。とにかく選手たちには思いっきりやってほしい。特に若い選手は普段の練習や自主練でも朝早く来て最後まで残って色々なことをやっている。でも試合に出た時にシュートを打たなかったり攻めなかったりしないと練習を積み重ねてきた意味がない。
思いっきりやれば周りがカバーしてくれるし、そういう信頼関係は絶対にできてるから。一人の選手のミスが試合の結果に直結すると思い過ぎなくていい。今のメンバーはみんなカバーしてくれるし、むしろ消極的になっている姿を見せてしまう方がチームにとってマイナス。
負けが続くと安全に行こうと小さくなってしまいがちになるけど、今のチーム状況であれば安全策を取らずに思いっきり行った方がいい。ベンチの盛り上がりや雰囲気を見てもそう感じる。
連敗した後のチームの雰囲気も以前とは全然違う。翔(上杉AC)も今日のミーティングで言っていたけど、負けた後は普通なら沈んで一目散にベンチへ帰るところを、倒れた選手に手を差し伸べて、最後までみんなで助け合っている。あれこそが今のチームの象徴。
京都ハンナリーズはどういうチームか。あのシーンを見たら一目でわかる。見ている人たちにも今よりもっとこのチームの魅力を知ってほしいし、コーチ陣が本当に良い働きかけをして、選手もそれに応えようと「俺たちは大丈夫なんだ」と信じている。これはなかなかできることではない。まだまだこれから。全員で頑張っていくよ」。
プロスポーツの世界は厳しい。プレーオフ進出や日本一という目標も決して容易ではない。
ただ、勝敗を超えるような魅力がこのチームにはあるように感じる。村上GMが掲げるテーマのひとつである「FAMILY FIRST(ファミリーファースト)」は、言葉だけでなく、全員が自然に体現している。そんな魅力がクラブのカルチャーとなり、その上にあらゆることが積み重なっていく。これからも真っ直ぐに上へ上へと積み上がっていけば、いつしか最高の景色を見られるかもしれない。その過程の中では多くの壁や困難も当然待ち受けているだろう。そこから目を逸らさず、真正面から向き合い続け、挑戦していくチームの姿をこれからもありのまま伝えていきたい。

取材・執筆 / 京都ハンナリーズ広報部 笠川真一朗
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